日本の大手製造業の開発部門で、コンサルティングと研修+コーチングのパッケージで組織開発をした際の検証データです。
この企業では、組織開発の一環として、プロジェクト・マネージャーのリーダーシップ開発を実施しました。このリーダーシップ開発では、ポジティブ心理学をベースにした研修とコーチングのほか、いくつかの施策を開発プロジェクトのプロジェクト・マネージャーに向けて提供したものです。ここでは、(予算の関係もあり)マネージャーだけを対象にして、メンバーは研修やコーチングの対象となりませんでした。そこで、マネージャーの変化が組織全体に影響を及ぼせるように工夫をして実施しました。その工夫や参加者の意欲の高さが、好ましい成果を生み出し、プロジェクト組織全体に対して大きな変化をもたらすことができました。
なお、このデータは、代表の渡辺 誠(Max Watanabe)が2011年7月に米国フィラデルフィアで行われた国際ポジティブ心理学会第2回世界会議で発表した内容を加工して掲載したものです。
部下から見たプロジェクト・マネージャーの行動変化
組織開発によるヒアリングの後実施した、ポジティブ心理学を応用した研修やコーチングを受けた開発チームのマネージャーは、以下のように行動変容しました。
上のグラフは、研修後に開発チームメンバー(部下)が上司を評価した結果です。研修に参加しなかった開発チームメンバー(部下)が、研修に参加した開発チームのマネージャーのコミュニケーションの質や内容などの行動に変化があるかどうかを報告したものです。その結果、行動変化があることが認められました。
ここのグラフにあるt(140)=‐4.61, p<.01とは、統計処理をしてこの数字を確かめた結果です。この変化は有意であり、同様の事をすると、他でも再現することを示しています。
グラフをご覧になっても分かるように、実施前後に大きな変化が見られます。また、開発チームメンバー(部下)からは、次のようなコメントを聞くことができました。
マネージャーの変化に対するメンバーの感想
- 最近、私たちに自分たちのやっていることで「何が上手くいっているか」を考える機会が増えました。そして、私たちチームでどうしたらうまくいくかを議論するようになりました。この議論の場は、刺激てきです。なんとなく疲れがたまったのが依然の会議ですが、同じ時間、議論しても、今は爽快な疲れを感じます。
組織開発の変化としてのプロジェクト・メンバーの変化
この研修プログラムのコースに参加したのはプロジェクト・マネージャーだけなのですが、ここではマネージャーの行動変化が、研修プログラムのコースに参加しないプロジェクト・メンバーへ、変化を及ぼすことができるかどうかを調べました。メンバーが主体的な行動、チーム内の協力意識、メンバーのモチベーション、目標に対する意識などを計測しました。その結果、次のような変化あったことが分かりました。
(実は、プロジェクトの成果そのものに対しての生産性とか不具合の発生状況などを見たかったのですが、この組織では大型プロジェクトから、小型プロジェクトまでさまざまな商品に対してプロジェクトを組んでおり、それぞれのプロジェクトでマネジメント方法が違い、変化を測る同じ「ものさし」がありませんでした。したがって、共通して計測できるデータを取っています。)
メンバーの主体性の意識の変化
この企業でも、主体的なプロジェクトづくりが、求められていました。ここでは、研修がプロジェクトのメンバーに変化をもたらしたか、を調べました。
メンバーの主体性は、マネージャーが研修等を受ける前と後では、上記のように変わっています。「マネージャーのポジティブな行動変化(力をみとめる、委譲する、成果を認めるなど)が、部下に自発的に行動させるようになった」ことが分かります。自主的にプロジェクトを回せるようになるために、色々な工夫が伝わってきました。
この件に関するプロジェクト・メンバーのコメントをご覧下さい。
- マネージャーは、私に指示を出すとき、その業務の「目的・意味」や「影響力」を明確に説明してくれるようになりました。加えて、それを遂行する方法を考えることを、私に任せてくれるようになりました。それは、とても責任を感じますが、やる気が起きることです。そこで、私はもっともっと、これまでのプロセスよりも良いものができるように、計画し、創造的に考えるようになりました。
以上のコメントはほんの一部ですが、マネージャーの態度変容が、プロジェクト・メンバーの主体的活動を増やすことになることが分かりました。
メンバーのその他の指標
そのほかにもいくつかの目標について計測しましたので、その内容の一部を紹介します。
仲間意識・モチベーション・目標意識のどれも、マネージャーが研修等を受ける前と後では、大幅に変わっています。マネージャーの変化がメンバーの行動を変えたことがわかります。
このグラフのほかに定性データも紹介しています。主なものを挙げると以下の通りです。
目標について
- 毎朝の朝礼で、その日の目標を全員で共有することになりました。それにより、以前よりも「もっと高い目標」を目指すようになりました。
- マネージャーが、私たちに達すべき目標や目標達成することの意義を明確に示してくれるようになりました。目標達成しようという気持ちも強くなり、以前よりも一生懸命集中するようになりました。。
モチベーション
- マネージャーは、私の「強み」についてよく話してくれます。それが、私自身をよく知ることにつながり、「自分の強みを活かそう」と、やる気の源泉になっています。
- 私のマネージャーは、ときどき私の「強み」にあう業務を任せてくれるようになりました。これは、嬉しいことです。私は、業務をより楽しくできるようになりました。
- 以前より、チームの雰囲気が明るくなってきました。なにかわかりませんが、気軽に問題を話し合える雰囲気です。けっこう、みんながリラックスしながらも、モチベーション高く、真剣に話し合う時が多くなりました。
チームの関係性の変化
- 毎週のミーティングで「PAM(ポジティブ・アプローチ・モデル)」という問題解決ブログラムを実施しています。そのとき、私たちは、私ができるアイディアをドンドン出していくので、仕事の目的や意味づけが楽しくでき、他のメンバーの意見を聞くことができます。また、それだけでなく、自分の出したアイディが、他のメンバーのアイディアを刺激して、どんどん発展していくのです。そんな形で、チームで協力しあっています。人の役に立っているという気持ちはいいものですね。継続したいです。
- 私のことを他のメンバーが、アイディアで助けてくれるのは、ありがたいです。私も、いつも助けられているだけでなく、他のメンバーを助けられるようにアイディアを出すなど、できるようになりたいと考えています。