ポジティブ心理学とは

ポジティブ心理学とは?

ポジティブ心理学は、ひとが最大限の能力を発揮するための科学的研究です。また、普通のひとがより良い生活やより良い仕事ができるために何をしたらいいかを探求している学問です。

ポジティブ心理学は、1998年にマーティン・セリグマンが提唱しました。セリグマンがアメリカ心理学会の会長に任命されたときです。彼は、次のように述べました。

「今までの心理学は、精神的障害や人間の弱さに焦点を当ててきた。精神の病の原因となることを取り除くための研究、精神の病を治すための研究が心理学の主な役割であり、活動であった。このことで多くのひとを救い、社会に貢献してきた。これを私たちのは誇りにしたい。しかし、心理学には、これだけでなく、まだできることがある。今まで、あまり焦点を当てていない、精神的に健康なひとが、より良い生活やイキイキと仕事ができるために、心理学を使うことである。これからの心理学は、この側面をより研究していくことを提唱したい。」

ポジティブ心理学の提唱者「マーティン・セリグマン」と、サクセスポイント代表コンサルタント「渡辺誠」

そして、この活動を「ポジティブ心理学」という名称で呼ぶことにしました。マーティン・セリグマンは、ポジティブ心理学を以下のように定義をしています。

  • 「強み」にも弱みにも関心を持つ
  • 最高の人生をもたらすことにも最悪の状態を修復することにも関心を持つ
  • 普通のひとが満ち足りた人生を作ることにも、病気を治すことにも関わる
  • 惨めさを減らすだけでなく、幸せや良い生活を増やすための介入方法も開発する

(2009年国際心理学会第1回世界大会の講演より)

心理学には、精神分析学派(フロイトなど)、行動学派(スキナーなど)、人間性学派(ロジャース・マズローなど)がありますが、そこに新しい学派ができたと言ってよいでしょう。今までは病気に関係することが主流で学者の論文も95%が精神の病に関する研究でした。より良い生き方や、より良い働き方を研究をしているひとたちは、今までの心理学の世界では主流ではありませんでした。たった5%の論文が病気以外の心理学研究論文でした。

今は、大きく変わりました。アントニエラ・デル・ファーベが会長で主催する国際ポジティブ心理学会には、健康なひとが使う心理学を研究しているひとたちがどんどん集まってきています。テーマは、動機づけ・自信・目標とその達成行動・希望・意味・関係性・フロー理論(夢中になり没頭すること)・幸せ論・ポジティブ感情・愛・困難に打ち勝つ力(レジリエンス)など、私たちが知りたい情報がいっぱいです。セリグマンの1998年の提唱後、10年以上過ぎた今、世界の一大勢力になっています。働く場に、キャリアに、組織のあり方に、家庭に、幼児教育から大学教育までの教育に、幅広く使われ始めています。

「国際ポジティブ心理学会第2回世界会議」の様子
国際ポジティブ心理学会 会長 アントニエラ・デル・ファーベと渡辺 誠)

ポジティブ心理学は、ひとが最大限に能力を発揮するための科学的な研究をする学問です。 ここでいう科学的とは、実証データで示すということです。ポジティブ心理学者は、統計学などの手法を利用して証明していきます。仮説を検証して統計データで証明し、研究成果を発表しています。

私たちは、このポジティブ心理学の研究成果を利用し、AI(アプリシエイティブ・インクワィアリー)やソリューションフォーカスなどの手法も活用しながら、「ひとづくり、組織づくり」に応用しています。実施するコンサルティングの内容や、研修の内容は、しっかりしたポジティブ心理学の証明に基づいて行っています。学問で証明されて良いとわかっていることを、私たち現実の働く場に落とし込んでいくのでコンサルティングや組織開発が成功する確率が高いのです。

ポジティブ心理学の領域

ポジティブ心理学は、45分野以上の分野から、組織やひとの能力を最大限に発揮できる研究をしています。

下図は、私たちが研究を重ねる主な分野です。これらの分野の研究を重ねることで、イキイキ働き能力を最大限に発揮し、自信と充実を実感できる「ひとづくり・組織づくり」をしていきます。そして、ここから企業に高い成果(パフォーマンス)をもたらします。

「ポジティブ心理学」の分野

1. AI
2. 内的動機づけ
3. フロー
4. ハピネス
5. 強みと弱み
6. 意味・希望
7. 自信
8. レジデンス
9. ポジティブ人間関係
10. 目標・可能性
11. エンゲージメント
12. ポジティブリーダーシップ
13. ポジティブ心理学コーチング
14. ポジティブ感情
15. 楽観・悲観
16. 最善主義

また、この分野の研究は、統計データによって科学的に効果が認められています。私たちが活用するポジティブ心理学は、日々研究を重ね、進歩しています。そして、その研究成果を追究し、最適に利用できる方法を組み合わせて、組織開発コンサルティングや研修に役立てています。常に、アップデートしている科学的学問です。つまり、皆さんの日々の変化に、常に対応できるよう、一歩先に一歩先にと研究と科学的裏付けを取り続け、その応用を研究しているのです。

ポジティブ心理学の適応事例

コロラドの核兵器工場で「超高生産性」を達成

ミシガン大学・ビジネススクール大学院で教鞭をとる、キム・キャメロン教授のグループがコンサルティングをした成果を紹介します。核兵器工場で適応された、ポジティブ心理学ベースのコンサルティング手法の成果です。このポジティブ心理学を応用したリーダーシップを適応することで、並外れた高いパフォーマンスを達成しました。その詳細は、以下をご覧下さい。

ミシガン大学のキム・キャメロン教授とサクセスポイント代表コンサルタント渡辺 誠

コンサルティング実施前の状況

米国コロラド州にあったロッキーフラットの核兵器製造工場では1989年に連邦調査局の調査が入りました。環境を破壊し、環境保護法に違反しているので改善せよとの命令を受けたのです。そのニュースを聞きつけ、街では市民グループやコミュニティの代表者による施設反対の嵐が吹き荒れました。従業員の間にも不安・不満が充満し、苦情が後を絶たない状況でした。
その後、工場は改善が進まず本当に閉鎖せざるを得なくなってしまいました。そこには100トン以上のプルトニウムや、25万立方メートル以上の低レベル放射性廃棄物が残っていました。このまま放置しておくわけにはいきません。ABC放送のテレビ番組でもこれらの建物はアメリカで最も危険な建物と指定されてしまいました。このサイトを浄化する必要がありました。6,000エーカーの土地に800ものビルディングがある広大な場所の最終処理をする必要があったのです。エネルギー庁はこの施設を安全な状態に戻すには70年の歳月と36億ドルの資金が必要であるとの試算を示していました。
その最終処理をコロラドにある環境エンジニアリング会社が請け負いました。この企業にて、ミシガン大学のキム・キャメロンのチームはポジティブ心理学を応用した「ポジティブ・リーダーシップ戦略」を実施したのです。

並外れた高いパフォーマンス

「ポジティブ・リーダーシップ戦略」で「超高生産性」(=並外れた高いパフォーマンス)を達成

その結果、上の図にあるように並はずれた高いパフォーマンスを達成しました。70年かかる予定の仕事がわずか10年で終わりました。36億ドルの予定だった費用がたった6億ドルで済んだのです。熱心な従業員はアイディアを出し、200もの技術革新を実現しました。これらの技術がスピードアップに貢献しました。品質的な視点でも連邦で定めた基準より13倍もきれいになり、仕事を完了しました。
「ポジティブ・リーダーシップ戦略」が浸透してくると、反対勢力であった市民グループはサポート役に回り、助けてくれました。従業員も900もの不平不満や苦情を申し立てていた状態から、マネジメントに対して最高の評価を与えるまでに変わりました。特権や終身雇用を求め活動していた労働組合員も質の高い仕事を熱心にするひとたちに変りました。
「ポジティブ・リーダーシップ戦略」を実施し、ポジティブ感情を豊かにして、「ポジティブエネルギー」を活かして実現した成果です。

「ポジティブ・リーダーシップ戦略」で活用した施策

ここでは以下の「4つの要素」を活かして組織の活性化に取り組みました。

1.ポジティブな風土作り
2.ポジティブな関係作り
3.ポジティブなコミュニケーション
4.ポジティブな意味づけ

「4つの要素」を活かして組織の活性化

これらの考え方をリーダーが身につけて、PMI(ポジティブ・マネジメント・インタビュー)と名付けた従業員との1:1のコミュニケーションを毎月実施することにより、並はずれた高い生産性を成し遂げたのです。

ポジティブ心理学の成果

ビジネススクールにいるキャメロン教授たちは、ポジティブ心理学と組織行動学を合わせた学問分野を作り上げ、「ポジティブ組織学」と名付けています。ですから、組織における気持ちや行動の変化がどのような効果を作り出すかを統計データに基づく「実証」で示しています。つまり、ロッキーフラットの核兵器工場では、ポジティブ心理学で効果が証明された方法を利用してコンサルティングを実施し、成果を上げたのです。

このように「ポジティブ心理学」を応用した組織開発コンサルティングは、並はずれた大きな成果が期待できるものなのです。今回ご紹介した事例は、核兵器工場ということで、少し特殊な状況に感じるかもしれません。しかし、これは核兵器に限らず、どの組織にも適応できることなのです。

ポジティブシンキングとの違い

ポジティブ心理学は科学的な学問

ポジティブ心理学は、統計学や脳科学で証明して理論を打ち立てる科学的な学問です。ポジティブシンキングは、一人のひとが、自分の価値観や、信念をもとに自説を説いたものです。

ポジティブ心理学を知らない人が、言葉だけ捉えると、ポジティブ心理学はポジティブシンキングと混同されてしまうことが多いようです。しかし、それは全く違うものです。

ポジティブ心理学

ベース普通のひとがより良い生き方や働き方をするために、科学的な学問。統計手法で証明された事実。
根拠科学的な調査を行い証明する。
効果統計データで多くのひとに効果があると立証された事柄。
考え方ポジティブなこともネガティブなことも考え、バランスを重視する。 ネガティブや悲観的な考え方はリスク防止や回避に絶対必要と考えている。しかし、ポジティブな感情を多く持った方が前に進んだり、創造性を豊かにしたり、成長しやすい。ポジティブでいる方が人間は最高の機能を発揮しやすいと考えている。

ポジティブシンキング

ベースどこかの誰かが自分の経験や判断で主張している。
根拠各々個人の考え方なので、根拠がある場合と無い場合がある。
効果適用した多くのひとに効果があるかは未知数・不明。
考え方プラス思考などはネガティブをポジティブに言い直してみる。 ポジティブのみ考えることを主張し、ネガティブな考えを否定する説が多い。

ポジティブ心理学は、多くのひとを対象にした統計を取ります。その統計で効果があることを立証します。そして、ポジティブとう言葉が付くからと言って、ネガティブを見ないわけではなく、ポジティブとネガティブの両方を受け入れます。ポジティブとネガティビティのバランスを大事にしているのです。

ポジティブ心理学ではない考え方

・悪いことでも、良いところだけを見て、悪さの認識をしない
・褒めてばかりいて、叱らない。厳しくしない
・強みばかりみて、弱みを気にしない
・何とかなるさと楽観的に考え、リスクを考えない

以上はポジティブ心理学ではない考え方です。このように、ポジティブ心理学と、ポジティブシンキングは、内容が大きく違うのです。

つまり、私たちは科学的に立証された根拠ある理論や手法を元に、組織開発コンサルティングや研修を行っています。だからこそ、ポジティブ心理学による「ひとづくり・組織づくり」を通じて、企業に高い成果をもたらすことができるのです。

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